私のプレゼンテーション内容のタイトルは、『中学校における情報教育の現状』というものになりますが、ここで申しあげる「現状」とは、そのまま「課題」だと思っていただいてよろしいかと思います。それでは、本日は、基本的には「中学校における情報教育が、どのような課題に直面しているのか」ということについてお話させていただきたいと思います。
現状の中学校で、直接的に「情報」および「コンピュータ」について指導する教科としては、「技術・家庭」があります。多摩中学校のケースで申しますと、「技術・家庭」の授業時間は3年間で計175時間。そのうち技術について教える時間は、半分の約90時間になります。ところが、その90時間のすべてを情報教育に費やせるわけではありません。なぜなら、技術の時間では、大きくは「モノづくり」と「コンピュータ」の2つについて指導することになっているからです。となると、生徒が授業でコンピュータについて学べる時間はどうしても限られていきます。そのような状況下においては、情報やコンピュータに関する専門的なスキルを養うだけの時間的余裕はなく、そのため、中学校の3年間では、生徒たちはコンピュータの基本的な構成や機能を学び、簡単な操作を身につけることくらいしかできません。
また、小学校の授業でどの程度パソコンに触れてきているか、あるいは保護者がパソコンを所有しているかどうかによって、中学校入学時における生徒間の能力や経験には大きな差があります。さらに、小学校は教科担任制ではなく学級担任制ですから、所属した学級や担当教員の違いによって児童が経験する情報教育の内容は異なってきます。例えば、社会科見学に関する感想を発表させるときに、児童にプレゼンテーション用のソフトウェア『PowerPoint』を使っての資料作成を課す教員もいますし、その一方では、ノートや画用紙で発表させる教員もいます。つまり、小学校である程度パソコンに触ってきた生徒にとっては、中学校で学ぶIT知識やスキルは、どれも初歩的なものと感じてしまうことになります。
加えて、文部科学省の定める「学習指導要領」に則って実施していくことが求められる、日本の義務教育の在り方も関わってきます。現状、学校や各教員はこの「学習指導要領」の内容から逸脱した教育・指導はできません。ここに、中学校の情報教育に対する課題の一つがあります。例えば、「理科」の教員が「技術・家庭」の教員よりも、はるかに高いITスキルや知識をもっていたとしても、担当教科内でITについて教える機会はほとんどありません。また、2000年からは、各学校で「総合的な学習の時間」が実施されております。この時間は、国際化・情報化をはじめとする社会の変化を踏まえ、教科などの枠を越えた横断的・総合的な学習を行うために設置されたもので、「学習指導要領」のなかでも、国際理解や情報、環境、福祉・健康などが例示されています。情報についても、きちんと盛り込まれてはいるのですが、それでも私は情報教育の未来について大きな懸念を抱いています。
なぜなら、最近の経済・社会情勢の変化を鑑みると、情報教育の重要性に対する認識が低下していく可能性が高いと考えているからです。例えば、近年、日本を先進国へと押しあげた「モノづくり」の力が弱まってきているという指摘が各方面からなされており、そのため中学校の「技術・家庭」の授業では、今後は、情報教育ではなく「モノづくり」に指導の重点がおかれるようになる可能性があります。それ以外にも、環境に関する教育や金融についての教育強化の必要性が叫ばれており、また、2009年から「裁判員制度」がはじまることもあって、法教育の重要性も高まっています。
こうした状況のなか、情報教育の重要性が相対的に低下し、教育関係者の間に、「これまでの取り組みで、情報教育は一定の成果を上げたから、今後の学校教育の課題はモノづくり教育や環境教育の充実だ」という認識が広まっていき、結果的に中学校での情報教育が疎かになっていくのではないかという不安を感じています。