私たちが、日頃視聴しているテレビ放送は、大きく2つの形態に分けることができます。1つは、スポンサーから広告料を徴収して視聴者に無料で番組コンテンツを提供する「フリーテレビ」、そして、もう1つがスカイパーフェクTVやケーブルテレビなどに代表される「ペイテレビ」です。
日本で、フリーテレビの放送がスタートしてから数十年が経過していますが、テレビ局の収入源である「タイムCM」や「スポットCM」と呼ばれる広告料収入はこれまで右肩上がりで拡大を続けてきました。しかし、2006年にこの広告料収入が初めて減少に転じたのです。このことはフリーテレビの従来型ビジネスモデルが通用しなくなってきていることを意味していて、テレビ局にとって2006年はエポックメイキングな年だったと言えるでしょう。このまま何も対策を講じなければ、広告料収入の減少は今後も続いていくと思います。
さらにフリーテレビ局にとって頭の痛い問題として、ハードディスク型DVDレコーダーの普及が挙げられます。このレコーダーには「CMスキップ」の機能が付与され、さらには大量の番組を録画できる容量を持っています。そのため視聴者の多くは、平日に溜め録りしたさまざまな番組コンテンツを、休日にCMを見ないで視聴することができるようになりました。インターネットという新しい広告メディアの出現とともに、こうした要因によって広告メディアとしてのフリーテレビの価値は相対的に下がってきていると考えられます。
また、急激に台頭してきているウェブ広告との比較で考えてみると、テレビのCPM(聴取者1000人当たりの投下広告費原価)は300〜400円で、つまり一人につき0.4円で、一方WEBは一人4円、つまり一人当たりの広告単価は10倍です。広告ビジネスとしてみれば、WEBの方が客単価の高い商売ということになります。
ポータルサイト最大手のYahoo!の時価総額が約数兆円であるのに対して、テレビ局最大手のフジテレビの時価総額は数千億円で、その他の在京テレビ局の時価総額をすべて加えてもYahoo!には届きません。しかし、NHKが実施している「国民生活時間調査」によると、日本人の1日当たりの地上波テレビ接触総量は約250億分であるのに対し、ウェブは約20億分に留まっています。この約20億分のうち、Yahoo!が占めるのは約2億分です。接触総量に限って言えば、Yahoo!はテレビ局の百分の一にも満たないのです。それにもかかわらず、Yahoo!の時価総額ではテレビ局を大きく上回っています。この差が何に起因しているかと言えば、もちろんインターネットの「将来性」というファクターもありますが、おそらく、先ほど申しあげた客単価の高低にあると考えられます。従来型ビジネスモデルである広告放送をこのまま続けている限り、テレビ局はいつまで経っても時価総額ではYahoo!にかなわないことになります。こうした厳しい環境のなかでテレビが生き残っていくには、従来型の広告放送に代わる新しいビジネスモデル、客単価の高いモデルを構築する必要があるでしょう。
さらに、近年のITの発達によって、「受像機のIP化」が進んでいます。例えば、シャープの新型液晶テレビにはIP入力端末が標準装備されてますし、また光ファイバーに接続できるテレビも増えています。これは地上波でテレビを視聴しながら、上り回線で光ファイバーを使ってインターネットに接触できるインフラが整いつあることを意味しています。しかも、2011年にテレビ放送がデジタル放送に移行することもあって、これから発売されるデジタルテレビにはIP入力端末が標準装備されると思います。つまり、先ほど説明した約250億分に及ぶテレビの接触総量が、今後は、そのままIP網につながるようになる可能性が高いわけです。そこで、従来型の広告放送に代わるテレビ局の新しいビジネスモデルとしては、膨大な接触総量とウェブ広告の高い客単価をうまく組み合わせていく方法が考えられると思います。それを実現するには、テレビ局で働く一人ひとりのビジネスパーソンが、インターネット等のITデジタルメディアに対して抱いている距離感を捨て、環境変化にうまく適応していくことが最重要課題になってくるでしょう。