普段は、教育とはまったく縁のない仕事をしている私ですが、ライフワークとして、人類が進化していく過程において、重要な役割を担うと考えられるITと、新時代の教育手法をどう結びつけていくかというテーマについて研究しています。その研究の一環として、昨年、弊社が中心となって『未来の学校』という40分ほどのドキュメンタリー映画を製作しました。近年のインターネットを中心としたITの発達ぶりには目を見張るものがありますが、その結果、eラーニングの普及などによって教育の現場にITが導入され、教育の形態そのものが大きく変わろうとしています。そこで、この映画ではICTのインフラを活用することで、教育の現場でどういうことができるのか、また教育プロセスにどのような変化が起こりうるのかを、大学・高校・小学校それぞれの事例で、実験・検証してみました。
周知のように、宇宙開発やコンピュータ、バイオなど一連の科学技術の急激な発達によって、20世紀は人類にとって大きな転換期となりました。しかし21世紀は、それ以上の変革期になることが予想されます。物事の変化するスピードが極端に速いため、“ほんの数年先のことすら予測できない”のが21世紀という時代なのです。極端な話、20世紀の以前と、以後では社会のありさまがまったく変わってしまったと言っても過言ではありません。そこでは、社会変革に合わせて人類も進化していかなければならないというのが私の持論です。そうした人類の、「質的」な変化を促すツールこそITであり、その進化の端緒に立っているのが子供たちなのです。
現在、そして未来の子供たちは、自立して自ら考え決断し、行動できる「地球人」になる必要があります。ところが、未来の日本を背負って立つはずの子供たちを取り巻く教育環境は、決して良いものになっていないのが現状だと思います。皆さんもご存知のように、従来の日本の教育システムは「知識伝達(詰め込み)型教育」でした。しかし、もはやこうした教育は社会のニーズにそぐわなくなってきています。私は、これからは自立を目標とした「知識活用型教育」にシフトしていかなければならないと考えています。人間一人ひとりが持っている資質はそれぞれ異なり、教育は、それを引き出すための場です。教育に携わる教員の方々、あるいは子供たちのご両親は、まずそのことを認識する必要があると思います。
しかし、現実はどうでしょう。例えば、「なぜ、勉強するのですか」と問いかけても、ほとんどの子供たちは、自分自身の内なる考えを答えることができません。ご両親も同様でしょう。なかには「いい大学に入るため」「有名企業に入社するため」という答える方もいると思いますが、果たしてそれが勉強する理由でしょうか。そうではないはずです。では、いったい、何のために勉強はするのでしょう・・・。そう、まずはそのことから考える必要があるのです。詰め込み型の日本の教育には、この「なぜ」の部分が欠けていました。これが欠けていては、考える力が身につかず、自立した「地球人」を育成することはできません。
また、昨今では「勝ち組・負け組」という表現をよく耳にしますが、世の中はそれほど簡単に割り切れるものではなく、多様性に満ちているということも子供たちに教えていく必要があるでしょう。このことを、学校に置き換えるならば、テストで上位の成績をとることだけが重要なのではなく、“自らが目標を設定して・努力して・目標を達成することが、何より大切だ”ということを教えなければならないのです。単なる勝ち負けではなく、そうした価値観を植えつけていくことも教育者の重要な役割の一つだと考えています。
インターネットを中心としたITが教育に及ぼす影響は非常に大きく、ITは未来の教育環境を形づくる重要なラーニングツールになるはずです。しかし、残念ながら日本には「どのような人材を育てていくか」という教育のビジョンが欠けています。今のままでは、どんなに立派なITインフラを教育現場に導入しても、宝の持ち腐れに終わってしまうでしょう。「なぜ」を考える視点、そして明確なビジョンを前提に、人が、“テクノロジーを道具(ツール)として、どのように活用していくか”が、教育の現場では問われているのだと思います。