日本には、トップレベルのスキルを持った「高度IT人材」の絶対数が不足しています。ここで言う高度IT人材とは、特定の分野において高い専門性やスキルを身につけた人材ではなく、複合的なスキルを持った人材のことになります。現在、日本のIT人口は約60万人を数えますが、総務省の『情報通信ソフト懇談会』が発表した統計によれば、全体で約42万人ものIT人材が不足していて、そのうちの約26万人を高度IT人材が占めています。実は、日本のIT業界はかなりいびつな構造を呈しておりまして、エンジニアの約80%が業務系アプリケーションの分野に集中しています。つまり、「アプリケーション開発・ローエンド」の部分に人材が偏ってしまっている状況なのです。
しかし、この不足感は徐々に解消されてきており、何より国際水平分業の進展によって、ローエンドの部分に関しては、中国やインドなどの新興市場国に技術がどんどん移転しています。そうした流れのなかで、日本企業が国際競争力を維持し、なおかつ高めていくためには、複合的スキルを持った高度IT人材の育成が不可欠です。ところが、実際は、システムの複雑化や事業構造の変化などに教育ベンダーが追いついておらず、“企業が必要とする人材を育成できない”というミスマッチ現象が起きています。
ユビキタス社会の到来が目前に迫った現在、情報技術はIT業界のみならず、国内のあらゆる産業に進出しはじめています。自動車産業にしろ家電産業にしろ、商品開発等における情報通信技術の重要性は数年前に比べて飛躍的に高まっており、ITの適応範囲は全産業に拡大しつつあると言えるでしょう。だからこそ、高度な複合スキルを持ったIT人材を早急に育成していく必要があるのです。例えば、日本の製造業はこれまで世界をリードしてきた存在ですが、その優位性を維持していくためには、企業や教育ベンダーは、より戦略的にIT人材の育成に取り組んでいかなければならないでしょうし、個々のIT人材も性根を据えてスキルアップに臨む必要があるでしょう。
では、具体的にはどうすればよいのか。まずは、日本が大きな転換期を迎えつつあることを理解する必要があるでしょう。前述したように、既存のITサービスは国際水平分業の波に乗って中国やインドにどんどん移転していきますから、これからローエンドの技術者を大量に育成したり、あるいは既存のIT事業を拡大しても意味がありません。今後は、現状のローエンドの技術者を、複合的スキルを備えた高度IT人材へと引き上げていかなければならないのです。加えて、ユビキタス社会の到来で日本には、新しいマーケットやビジネスが次々と生まれつつあります。これらのことを踏まえ、企業は事業ミックスの変更と社員のスキルセットの変更に、適合性を見いだすことが肝要でしょう。
ということから、これまでのように特定分野における技術の先進性や高度性にとらわれるのではなく、企業はマーケットの需要と自社の方針を優先した人材育成を進め、また、そうしたニーズに対して、教育ベンダーもニーズに即した教育を提供できるようなスキームを構築していく必要があるのではないでしょうか。
一昔前に比べると、教育ベンダーが提供する人材育成ツールは格段の進歩を遂げていますが、それらのツールを「手っ取り早いから」「便利だから」という観点で利用するのではなく、戦略性向上のために活用していくことが企業には求められています。その意味では「人材育成」は設備投資であり、これまでのような漠然とした取り組みから、「戦略的ロジスティックス」として位置づけていく必要があると思います。