皆さん、こんにちは。インテル株式会社で教育プログラムを推進しております、梶原と申します。本日のテーマは、「未来を拓く情報教育の今」ということで、世界の学校現場の現状についてお話をさせていただきたいと思っております。
まず、本日は、一番初めに「Intel
Innovation in Education」のイニシアチブについてご紹介をさせていただくことにより、本日、なぜ私がこちらにお邪魔させていただいているかをご理解いただけるかと思いますので、簡単にお話をさせていただきます。
次に、初等中等教育へのIT導入によるメリットと課題、それから世界の教員研修の現状についてお話をさせていただきたいと思います。
そして、中国の公立中学の事例について、お話をさせていただき、最後にまとめをさせていただきたいと思っております。
では、まず初めに「インテル・イノベーション・イン・エデュケーション」について、少しご紹介をさせていただきます。弊社、インテルはパソコンの頭脳であるCPUの製造、それから販売をメインのビジネスとしている会社ですが、本日お話をいたしますエデュケーションのイニシアチブに関しましては、社会貢献の一環として、ビジネスとは切り離した形で取り組んでおります。インテル・コーポレーション最高経営責任者のCraig
Barrett(クレイグ・バレット)はもともとバック・グラウンドとして、スタンフォード大学で教鞭をとっていたということもあり、技術者そして経営者である前に、1人の教育者という考え方のもと、社員に対する研修会も推し進めています。また、教育現場については、世界的に特に現在進んでしまっている理数系離れに対して、大きな懸念をいだいております。こうしたことから、インテルはインターネット・テクノロジのリーディング・カンパニーとして、科学、数学、テクノロジの教育の分野に積極的に取り組んできております。
このような背景がございまして、世界的な規模で、4つの柱をメインとした様々な教育プログラムを提供させていただいております。
まず1つ目の柱は、本日のお話のメインとなる、教室内でのテクノロジの効果的使用のための教員の研修をサポート。2つ目は、児童・生徒の科学やテクノロジを増進させることを目的とした、世界最大の高校生のための科学オリンピック、Intel
ISEF(インターナショナル・サイエンス・アンド・エンジニアリング・フェア)のメイン・スポンサー。3つ目はデジタル・デバイドの問題が非常に深刻化してきていますので、コンピュータへのアクセスの機会(コンピュータに触れるような機会)の提供のための、世界100カ所をめどとしたコンピュータ・クラブハウスの設置。そして、最後に、急速に進化を遂げていくテクノロジの進歩に融合できるような、大学の先進的カリキュラムのリサーチ。こうしたものを支援させていただいております。
そして、私の役割ですが、インテルの教育プログラムの日本でのプログラムの責任者、かつ、情報教育が進んでいるといわれております韓国のプログラムのメンターを努めております。なおかつアジアのチームとして、アジア地域でのエバンジェリストの活動も促進させていただいております。このアジア地域は、現在までのところ、日本以外には中国、インド、台湾、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、それからパキスタンといった国々で、教育のプログラムを実証させていただいております。
こうした様々な活動を通し、過去1年を振り返りましても、アメリカの私立、公立の学校を3回ほど訪問しております。それから中国、インドは過去2回ほど、過去1年に学校現場にお邪魔をして状況を拝見しております。本日はそうした活動のなかで、私が日頃から1人の日本人として大きく懸念していることを、皆さんとこの場を借りてシェアさせていただきたいと思っております。
この後からは、情報教育が求められている背景についてお話しいたします。長いこと何百年にも渡り、世界経済は資源主体で動き、物を次から次へと生産していくといったなかで、私たちは生きてきたわけですが、ここに来て状況が大きく今世紀から変わってきました。情報知識に基づく経済社会の構築が推し進められています。前世紀、といってもほんの3年前までですが、それまでは「情報化社会」と言われていたものが、今世紀になって「情報社会」と、言葉も変わってきました。このように、世界経済の発展は望む望まざるに関わらず、ITに大きく依存しているといわざるを得ないかと思います。
では、このような社会経済の変化のなかで、その情報経済のなかで、求められるスキルとは一体なんでしょうか。アメリカのCEOフォーラムから出てきた4つのキーワードをこのスキルとしてご紹介させていただきます。
まず「デジタル・リテラシー」。これは当然のことながら必要になってきます。ただ読み書きとしてのリテラシーというか、道具としての活用能力になるかと思います。
次に、「独創的思考力」。いわゆる、斬新な思考、発想。こういうものが、情報が溢れているなか、さらに求められてきます。
3つ目に「実践的なコミュニケーション力」。これからは、どんどん効果的なコミュニケーションが必要になってきます。数年前よく新聞マスコミ等を賑わしていたように、パソコン1台を通じて、子供がどんどんオタク化していくのではないか、1つの画面に篭りっぱなしになり視野が狭くなっていくのではないかと懸念されていましたが、実はまったくその逆です。この1つの窓を通じて、今までまったく触れることのできなかったような、違うバック・グラウンドを持った異文化の人、違う言葉をしゃべる人、それから違う生活スタイルを持つ人たちともコミュニケーションをしていかなければいけません。こういう複雑な状況になってきますので、実践的なコミュニケーション力というものは、今まで以上に求められていくと思います。
最後に、情報が次々と溢れてくるわけですから、「高い生産性を発揮するような能力」が、ますます重要になってくるかと思います。
この4つが、情報を調べて、集めて、そして編集して、発表して、共有して、さらにそのことによって思考を深めていくような活動、に求められるスキルになると思います。
それでは、本日、私が主にお話をさせていただく予定でした、「初等中等教育へのIT導入のメリット」に移ります。
まず、当然ことですが、パソコンやインターネットといった新しいツールを使うことによって、教育そのものの質の向上が行われるべきだと考えます。それは、情報教育の適切な導入によって、より魅力的な授業、分かりやすい授業、より深みのある授業を展開することが、必ずや可能になるというところからです。そのことによって、情報社会で求められるような労働者の創出が可能になっていくのではないかと思います。
これは少し余談ですが、世界的に理数系離れが進んでいますので、これらの加速防止も必要です。なぜならば、世界的なエンジニア不足に現在直面をしているからです。このことによってIT産業の成長の停滞が懸念されています。IT業界への人材確保といった意味でも、小さい頃からパソコン、インターネットといったテクノロジに接する機会の多い子供達が必ずしも理系に進むとは限りませんが、さらにその中身の構造に興味を持っていただいて、IT業界にも進んでいただければというのが、3つ目の狙いとしてあります。
実は、私は学校現場を訪問し学校の先生方とお会いしますと、いろいろな懸念が出てきます。また、使っている言葉に対して、違う理解をされることがありますので、ここで一端クリアにさせていただきたいことがあります。今申し上げているコンピュータの活用というのは研究科目として、過去から現在もあるコンピュータ・サイエンス、プログラミング、または、教科「情報」のような科目としてのコンピュータのことでは、もちろんありません。
本日述べさせていただいているのはツールとしてのコンピュータですから、理数系文系問わずすべての教科に組込まれていくべきものです。少しイメージするのは難しいかもしれませんが、音楽とか体育とか美術といった、文系の教科にツールとしてテクノロジが導入されることによって、さらにその教科への理解が深まるのです。後でご紹介するいくつかの事例の学校でも、すでに実践されています。
今までの学校現場で行われていた授業は、受動的な学習スタイルでした。受動的で、かつシングルメディアで独立的に作業をして、一方通行に情報の伝達をして、生徒はそれを受けていただけ。しかも、教員が主体で、過去にあった事実の認識をしていただけでした。かつて、私自身もこのような授業を受けていたものです。
ところが、これからの授業スタイルというのは、コンピュータやインターネットといったテクノロジが導入されることによって、当然マルチメディアになり、独立的な作業ではなく共同作業が増えます。そして情報の伝達ではなく情報の交換、さらには、そうしたことにより、高度な思考を生むことにつながっていきます。主役はあくまでも児童、生徒であり、教員の方は、教える人ではなく、これからはファシリテーターになるというように、役割が大きく変わっていくと思います。そのあたりのこともあって、学校の先生方はファシリテーターに自分の役割が代わるということに対して、もしかしたら懸念を示されているのかもしれません。
これまで、アメリカでこういった新しいスタイルを実践されている先生方の何人かにお会いしました。ファシリテーターということで、教えるというよりも、その授業の運営自体のサポーターやコーディネーターになることによって、先生はさらに高い知識を持っていないとついていけなくなります。そして、ファシリテーターとしての新しいスキルも必要になります。決してファシリテーターだからといって、仕事が楽になるのではなく、教えるためのより高度なスキル、それからファシリテーターとしての新しい役割が求められることになっていくかと思います。
申し上げるまでもありませんが、今世紀は通信や情報、ビジネス、メディアのなかで、大事なものはすべてデジタル化されてしまっています。ところが、学校現場というのは、まだこの社会の状況に追いついてはいません。私自身も、学校卒業してからしばらくの間、学校から遠ざかっていましたので、この3年前まで、学校はおそらく相当変わっているだろうと、勝手な想像をしておりました。ここ過去10年、20年で、ビジネスのオフィス環境がどんなに変わったかというと、もう1人1台の電話があって、ファクシミリが導入され、1人1台のパソコンが導入されてインターネットが張り巡らされる、とめざましく変わりました。ところが、学校は、残念ながら、過去のLL教室がパソコン教室になったというだけの教室が1つあるくらいで、一般教室はほとんど変わっていません。黒板とチョークを使い、紙の教科書を使ってプリントを配って、しかも置かれている家具に関しては企画も変わっていないというような、懐かしいといえば懐かしくて嬉しいのですが、何も変わっていないといった状況です。今、学校で学んでいる児童、生徒というのは、間違いなくこれからの日本を創っていく大事な将来の労働力ですから、こういった人たちにそのような教育をさせてしまっていいのだろうかと非常に強く思います。
もう間違いなく、教育にテクノロジを有効に取り入れざるを得ないと思いますが、そのために必要なモデル、4つの柱についてご紹介いたします。
当然のことながら、ハードウェアは必要です。次に、ネットワークも必要です。そして、3つ目は、皆さんお話をされるときに予算の枠にも入れられてないし、考えられてないことが多い、教師の専門性開発や教員の研修です。これは絶対に不可欠だと思います。そして、最後にこれも当然のことながら、コンテンツが必要になります。日本の小中高の教員の方でコンピュータが使えるという方が79%、使ったうえで指導ができるという先生方は40%、この数字だけでもかなり嘆かわしいものです。100%でないことがおかしいと思います。実際に学校現場にお邪魔をしましたが、嘆かわしい数字の「使えるという先生」ですら、ほとんどの方が私共の考えるところの「使える」に当てはまらない方です。
例えば、「発表用プレゼンテーションソフトを開けてください」と言っただけで、「発表用プレゼンテーションソフトは触ったことがありません」といったお話になったりします。「だいたい使える」という方の標準レベルが、電源を入れることができ、知っているファイルを開けることができ、そして、知りたい情報にインターネットにアクセスすることができる、ないしはやったことがある、それから、メールが送れると。この4点ができるくらいの方が、ここでいう79%のほとんどだと思っていただいてよろしいかと思います。
このような嘆かわしい現状ですので、4つの柱のうち、教員研修を怠ると、せっかくの予算で国が各自治体に大きな金額の仕送りをしているにも関わらず、ハードウェア、ネットワーク、コンテンツが揃っているにも関わらず、結局、パソコンはただの白い箱で埃を被ってしまうのではないでしょうか。
ハードウェア、ネットワーク、コンテンツは、乱暴な言い方をすれば、予算を配分すれば明日にでもできることですから、あまり深刻な問題でないと思います。まずは、教員の方々をどうするか。今、教員になっている方々のほとんどは、ご自身は情報教育を受けたことのない方々でありますし、情報の価値を分かっていらっしゃらない方もたくさん含まれていますので、この方々になんとか必要とされるスキルを身に付けていただくこと、これが、非常に緊急かつ大事なことではないかと思っております。
それでは、効果的なコラボレーションのためにいったいどういうことをすればよいのかということについてお話します。政府が国として、日本としてどうあるべきかという指針を出すことは当然重要ですが、既にeジャパン等で2005年までに各普通教室がどうなっているかといったモデルは、描かれています。問題は、教育界それから雇用主、コミュニティーがどうやって、そこに関わっていくかだと思います。
この雇用主として、企業が入りますが、この企業には2つの側面があります。1つは、予算の必要なことですから、学校で予算がないといわれれば、例えばそこで企業がサポートを、お手伝いをさせていただくという側面があります。
もう1つは、企業としても、学校、小中高で行われている教育は、その企業の将来のために非常に大事なものであるという側面。なぜならば、今質の低い教育を受けた子供達が、将来その会社に入ってきた場合、その会社は国際競争力を付けてグローバル・ビジネス・エコノミーのなかで生き残っていけるための研修を行なわなければいけなくなってしまいます。そのため、非常に企業にとっても大事なことと言えるのです。また、テクノロジは毎年、毎月のように進化をしています。テクノロジが社会に浸透してくれば、例えば大学を卒業した22、3歳の新人を、企業が採用した場合、その後も継続的に企業はその人たちに対して、研修を行っていかなければいけないということになります。これも今までとは違う状況なのではないかと思います。
政府、雇用主、教育界、コミュニティーの4つが上手く協力ができることにより、初めて知識経済への準備ができるのではないかと思っております。
そこで、インテルは社員の研修はもちろんですが、将来のIT業界のため、そして一般的な情報経済を担う人材育成のためにも、教員支援プログラムを実施させていただいております。
教員の方への教育においての、インテルの情報教育支援の役割ですが、今日の児童、生徒、そして教師の皆さんの情報経済に向けてのお手伝いをさせていただくこと。これを、世界的にコミットしております。
ここで、先ほど紹介させていただきました世界の教員研修、「Inter
Teach
to the Future」というプログラムを例にとって、紹介をさせていただきたいと思っています。
例えば日本では、eジャパンという構想がありますし、ドイツではD21という、21世紀にドイツがどうあるべきかというITの政策があるように、国によっていろいろな政策がすでに行われているかと思います。インテルでは情報教育の教員支援プログラムを学校現場で行っていることもあり、私共は、この同じプログラムを同じ条件で各国に持っていき、「さあ一緒にやりましょう」と、お話させていただきました。国ごとのいろいろな状況のなかで、1つの例をとってご説明したほうが分かりやすいでしょうから、このプログラムを例にとって、ご説明させていただきます。
このプログラムは、2000年の1月から開始したのですが、2002年の末までの3年間で、世界27カ国、70万人の教師の方に受講していただくというゴールをたてました。その結果、アジアの地域では2002年の末までに、日本を含む9カ国で37万5千人の教員が政府の支援のもとに受講を修了しております。ですが、私共がこういう活動をしていても、まだまだ砂漠に水を撒いているような状況です。実は、アジアでは37万5千人の受講者がいますが、日本での受講者はこのなかのたった1万人です。少し粗い計算ですが、日本は本来あるべき姿のもしかしたら、3、4分の1しか研修を受けられてないのではないかということになってしまいます。
研修時間は、日本では36時間で、これは当然のことながらリテラシーの研修ではありません。もうそれは、終わっているべきもの、ないしは、習うより慣れろというようなものだと思っております。私共がここでサポートする価値は、リテラシーではなくて実際に各教科のなかに、国語や算数、理科、社会のなかに、具体的にどうやってテクノロジを融合させるかといった、教案作成のような、根本から携わらせていただくようなプログラムです。
この36時間のプログラムも、もともとはアメリカで開発されたときには40時間でした。ところが、日本各地の教育委員会に「40時間で」とお話したときに、100%皆さんが、「40時間なんてとんでもない、天文学的数字だ」とおっしゃいました。「それでは、いったい何時間くらいの教員研修をされているのですか」とお聞きしたところ、「3時間くらいが多くて、多いところで7、8時間の1日間のコース」というお答えになるところがほとんどでした。
その時間でできるのならば、私共も構わないのですが、日本の現状を見たときに、とてもそれで追いついていけるとは思えませんでした。ただ、「40時間はできない」ということを100%皆さんはっきりおっしゃるものですから、妥協して1割削ることになり、36時間の研修にさせていただきました。
例えば、時間数1つにしても、リテラシーが完璧であるといわれている韓国の場合は、「40時間では足りない」と韓国の文部省の方が、回答されました。その後、お話をさせていただいたところ、「アメリカで開発されたところの40時間のカリキュラムに、さらに韓国としての肉付けをしたい」とのことでした。そこで、韓国では、60時間のカリキュラムができました。韓国の先生方は、この60時間のカリキュラムを、当然の長さという認識のもと、実際に受講をされています。
そういうことで、恥ずかしながらといいますか、日本では世界で最短の長さのプログラムを1万人の方に提供させていただいているというお話をすると、私自身だんだん惨めになってきますが、それが現状です。
さて、今回の講演内容として「アメリカやアジア諸国の情報教育の現状」というご案内があったかと思います。私自身、今年の頭くらいまでは、やはりアメリカが一番、情報教育が進んでいるのではないかと感じていました。しかし、今年、中国、インドを訪れ、私は非常に大きなショックを受けました。インターネットの接続状況や学校のパソコンの台数は、おそらくアメリカがまだ世界で1番ではないかと思いますが、実際にどんなふうに使われているか、本当に学校現場に浸透しているかという意味でいうと、アメリカは1番でないなというのが、私の感想です。
そこで、シンガポール、韓国もそうですが、アジアのなかでも特に進んでいると私個人が感じている、教員研修で一番熱心な中国とインドの研修のお話をさせていただきたいと思います。
中国ではガーデナ・プロジェクトというプロジェクトが、弊社のプログラムとは関係なく最初から進んでおり、幼稚園から高校までの教員の更なる向上を目指すという方針のもと、今年の末までに1万人のリーダとなるような教員の研修を国レベルで進めています。10万人の教員の方を都道府県レベルで研修、さらに100万人の教員を市町村単位で研修するという形で、教員の質の向上を図っています。
中国の場合は母数が多いのは人口が多いから当然だと皆さんは思われているでしょうし、実際それは事実なのですが、量だけの問題とは別に、中国は非常に質が高い教育を進めているというのが、実際何度か訪れての私個人の感想です。
中国と日本はシステムが異なりますから、単純に比較するのは難しいところはありますが、中国は、国を揚げてまず教育の質を上げようと、英語とコンピュータの教育に注力をしています。このコンピュータ教育というのはコンピュータリテラシーのほうではなくて、メディアリテラシーのほうです。
それでは、中国の事例をご紹介します。中国の場合は、コンピュータ導入に関わらず実は教員研修というものを真剣にやっています。上海を訪れた時、日本では研修を36時間実施していましたので、「日本の先生は非常に熱心に36時間の研修を受けている」といったお話をさせていただきました。しかし、中国では、40時間プラス・アルファのカリキュラムに書き換えたそうです。私が訪問した学校は、すでに7割方の先生方がすでに40数時間の研修を終えられていました。その先生方に「非常に熱心ですね」とお話をしたところ、「中国では国策として、教員は5年ごとに各5年間で約240時間の教員研修を受けなければいけないといった、決まりがあります。5年間で240時間ですから、年間40時間程度の研修というのは、非常に短い。」というのが中国の先生方の感想でした。他の廊下で歩いている先生方にも声を掛け、「年間40時間の研修は、実際どうなのですか」と尋ねましたところ、皆さん一様に「足りません」とおっしゃいました。「このぐらいしかチャンスがないので、自分ではさらに自宅で学習を」、もしくは「ポケットマネーでいろいろな所に行って、さらに学習を深めています」というご回答でした。
中国の国を揚げての研修会にお話が戻りますが、中国でも日本でも、同じプログラムを同じ2000年から教育委員会さん等にご紹介させていただきました。まず、中国の場合は、その後すぐに2000年から上海と北京において導入を決定しました。一方、日本は2000年からプログラムを開始したのですが、様々な準備により1年間のブランクがありました。
しかし、その間に中国では、文部省さんのほうから「もともと考えていたプランの倍の人数やりましょう」というお話があり、上海と北京のケーススタディをもとに、2001年には2000年に作ったプランの倍にあたる14地域に実施地域を拡大しました。そして、今年になり、さらに20地域に拡大したのですが、この地域のなかにはモンゴル自治区といったような、私たちがテレビを見る限り電気が通ってないのではないかというような地域も含まれています。現に、電気の通っていない地域がまだたくさんありますが、そういう所でも教員研修のために回線を引き、電気を引き、箱を立てコンピュータを設置するという、大変な努力をされています。
次に、インドの事例ですが、ひと言でいえば、インドは意気込みがすごいと感じました。インドは国家を揚げてIT大国になろうとしていますし、現に世界のIT業界の多くのエンジニアはインドから輩出されているという事実もあります。
たしかに、学校設備の面では日本にかなり引けを取っていると思います。ところが、インドの学校に行きますと実際に多いところで、25台くらいしかないパソコンがフルに活用されているので、本当に驚きます。5分たりとも、パソコンにお休みを与えていません。常に、子供達がパソコンにアクセスする機会を求めていますし、お昼休みであろうが放課後であろうが、子供達がパソコンを自由に使わせてもらえる環境が提供されています。授業のなかでは、実は25台しかパソコンがないものですから、いくつかのクラスで1度に授業をする場合、パソコンが触れない子供が出てきます。そういうときは、先生がストップウォッチを持って、10分や15分単位で、「はいAグループ終わり、Bグループ」というように、常に子供達がパソコンに触れることができる状態で授業を進めています。その授業になると、その重要な機会を逃したくないと、子供たちはトイレにもいかなくなるのです。そのくらい熱心に教師も子供達も情報教育に取り組んでいるというのが、インドの実態です。
そして、インドでは教師に対しての研修だけではなく、日本でいう教育学部にあたると思われる、公立大学の教員養成コースなどでも情報教育といったものを大学生に向けて行なっています。
では、次に1日掛けてゆっくり訪問しました上海の公立中学校の事例をご紹介させていただきたいと思います。何度も情報教育は大事だとお話をしておりますが、それではいったい、実際にそういったツールが教室に入って来たときに、学校現場はどのように変わるのでしょうか。
上海市にある、この進才中学北校という学校は、開発が非常に進んでいる地域で空港がある浦東地区という地区にあります。この中学では、2000年からITの本格的な活用を決定しました。ここまでは、日本とはあまり変わらない、ないしは日本よりは少し遅れているのかなという感じがします。しかし、モットーとして「生徒の学習効果向上のツールとしてコンピュータを活用しよう」ということで、黒板やチョークのレベルで活用できるところまでを目指すことを2000年に決意をされたそうです。そして、ITの効果的導入によって、インクワイアリー・ベースド・ラーニングという探求型学習を2年前から実践をされています。
また、非常にショッキングですが、生徒数が1100人程度で、この中学には9教室のマルチメディア教室があります。日本でいうと、公立の学校に1教室しかない、コンピュータを設置されたマルチメディアルームが、ここには9教室あるのです。さらに、マルチメディア教室ではないのですが、一般教室としてPCやインターネットが設置されているのが4教室あります。その他校内のPCの整備状況を台数でいうと、生徒が使えるパソコンが現在140台余り、教師用のパソコンが約70台近くあり、ハードウェアの整備が進んでいます。
それでは、実際のクラスや教室をご紹介します。
まず、日本でいう国語の授業、中国語のクラス。2000年までまったくパソコンを触ったことがないという56歳の校長先生がこの日の授業を行なわれていました。もともと、テクノロジに非常に否定的な中国語の先生だったのですが、ご自身がパソコンと出会って見方が変わり、今では校長自ら週に1回くらい、モデル授業を推進しているそうです。授業の行なわれていた教室には、常設されているパソコンはありませんでした。しかし、校長先生の私物のノートパソコンを持ち込んで1台のノートパソコンとプロジェクタを使い、国語の授業が進めてられていました。3人から4人でグループを組み、昔の漢文、詩、自分の興味のある作家の作品から、テーマを自分達で見つけ、それについて深く研究をして発表をしようといった授業内容のクラスで、訪問した日はちょうどプレゼンテーションの授業をしていました。生徒がお互いのプレゼンテーションを評価する「評価シート」をもち、例えば、声が大きく出ていたとか、正しいポイントを突いていたとか、主題からそれていなかったといった点を、生徒がお互いに評価をする形式の授業です。
次は、音楽の授業。教室に入ったところ、暗幕が降ろされて、シアター形式になっていて、この暗幕のなかで生徒達は中国の古典音楽を聞いていました。この授業の先生に後で、「音楽でマルチメディアを取り入れるっていうのはすごいですね」というお話をしましたところ、その先生は、「例えば世界のいろんな楽器を持ってきて音色を聞かせようとか、いろいろな年代別の音楽を聞かせようといったときに、なかなかそういう構想があってもままならなかったのですが、マルチメディアを取り入れることにより、それらが可能になった」といったことをおっしゃっていました。
また、音楽の授業のほかに、演劇の授業、体育の授業でも使われたりする、一般的な先生用のツールとして用意された演台が、それぞれありました。もちろんパソコンもありますし、CD、それからOHPもあります。また、演台上の各先生方のお手元には、デバイスがあり、先生は1カ所に止まりながら、このデバイスを使いPCの画面や音量などをすべてコントロールができるような設備が整っています。
少し余談になるかもしれませんが、各教室の入口の看板は中国語とその下に英語で各教室の説明が書かれていました。その他、「文化祭をやります」などの校内ポスターなども、すべて2カ国語になっていました。「校長先生自ら出した、アイディアで校内の掲示物はすべて2カ国語にしていますが、このことによって、英語の教育にも興味を持って欲しい」そうです。
先生方のマルチメディア教材の準備室も見学させてもらいました。ビデオ・テープをはじめ、いろんなCD-ROMのようなマルチメディアのソフトのアプリケーションがたくさんあり、奥のほうにOHP等のハードウェアの教材が設置されていました。
職員室の広さは、だいたい日本の一般教室の広さだったのですが、そこにはおよそ7人から10人くらいの先生がいらっしゃいました。この学校では、全員が集まれる大きな職員室がなく、教科ごとや学年ごとにいくつかの先生方のグループがあり、そのグループごとに小さめの職員室を分けているそうです。たしか、職員室を覗いた時は、ちょうどお昼休みだったのですが、先生方はお昼休みを返上して、発表用プレゼンテーションソフトを使い、自ら教材を作成されていたように記憶しています。この職員室だけでも、2〜3台の教材開発用のパソコンが置いてありました。
最後に、図書館の隣りにあった生徒の自習室をご紹介します。ここには、15台程度のパソコンがあり、ブースできれいに区切られていて、隣りとのプライバシも確保されていました。この学校のうち、たしか70%近いの生徒は自宅で自分が宿題をするために使えるパソコンを持っているとのことですが、持ってない生徒ももちろんいますし、学校で友だちと一緒に作業をしたいときなどにこの教室を利用したりするそうです。
このように、どこの教室に行っても、教科にもとらわれず文系であろうが、音楽であろうが、演劇の授業であろうが、パソコンがいろいろな意味でツールとして活用されていたというのが、上海で見た光景でした。
本日のまとめとしまして、知識経済の成功のためには、教育のテクノロジの効果的導入が不可欠であり、そして、日本の情報教育の現状は、決して楽観できるものではないと、私自身は感じているということをお伝えしたいと思います。本日、ご紹介させていただいたような上海市の一般的な公立中学では、設備や授業での組み込まれ方がかなり進んでいます。これまでお邪魔させていただいた、いろいろな日本の公立学校と比較すると、設備や使用のされ方どちらの観点から見ても、日本は楽観視できる状況にはないと感じています。我々企業も、政府、コミュニティー、教育界と手を携え、日本の将来の労働力育成のため、今後もサポートを継続していきたいと考えております。
本日は、どうもありがとうございました。