本日は、お招きいただきまして誠にありがとうございます。美しい日本の首都、東京を訪れる機会にめぐまれ、たいへん光栄であるとともに身の引き締まる思いです。
今回、お招きいただいた理由は、おそらくアメリカにあります私どもの高校 Eastern High School における生徒指導をはじめ、テクノロジ分野で求められる人材の育成をめざした教育の成果が認められた結果であろうと理解しております。私たちはこれまで、コンピュータ関連の検定試験、コンピュータ会社や企業の
IT 部門におけるインターンシップ (実務研修) プログラム、ソフト スキルのトレーニングなどを柱とした教育体制のもと、着実に成果を上げてまいりました。
成功の鍵は、複数のリソースを結集することによって実現した、生徒の進路に則した適切な指導にあるかと思われます。
私たちの教育方針を理解していただくには、まず私たち自身について知っていただく必要があるでしょう。Eastern High School は、ミシシッピ川のちょうど東側に位置するケンタッキーという小さな州の中規模都市ルイスビルにある高校です。ケンタッキーをご存知であるとすれば、おそらく競馬をはじめ、馬やバーボン
ウイスキーの産地として有名なためではないかと思います。学問の分野では、残念ながら、これまでずっとアメリカ50州のなかでも最低ラインにありました。ところが、ここ数年の間に、ケンタッキーの議会や州政府では、教育機関、特にテクノロジ関連の学校への支援を目的とした法制度の改革が実施されています。
州政府が発表した支援策のひとつは、学校の自治権を認めるというものでした。そこで、Eastern High School では、法で認められたこの権利を利用して、教育に対する考え方や具体的な方法を変えていきたいと考えました。
議会からは、ある理念に基づいた対策が打ち出されました。この理念とは、すべての生徒がコンピュータの知識を身につけなければ、優れた人材は輩出されないという考え方に端を発しています。したがって、教育の裾野が広がり、すべての生徒が常識的なレベルの教育を平等に受けられるようになりました。
私たちは、生徒を一個の能動的な職業人としてとらえているため、受身の学習態勢でよい人材が育つとは考えていません。こうした観点から、1年生 (ninth grade students) の必修コースとして「コンピューターテクノロジ入門」を設置し、2年生
(tenth grader) 全員には、ビジネス テクノロジ関連のコースを受講させています。こうした体制を実現するには、多くのコンピュータが必要になるため、我が校の IT 科の生徒が企業から寄贈されたコンピュータに手を加えて、各実習室をネットワークで接続し、どの生徒も使用できる状態にしています。我が校は、全部で18室のコンピュータ実習室と、およそ
700台のコンピュータを備えています。
私たちの教育理念は、すべての生徒に基礎的なコンピュータ スキルを習得させることです。これは、テクノロジこそがカリキュラムの中核となるべき学科であると認識しているためです。ほとんどの場合、アメリカでは英語、数学、社会、科学などが必須科目として採用されていますが、経済や将来に直結するテクノロジこそが重要であると考えた結果、我が校では、主要科目として取り上げることとなったのです。
まず、最初のステップは、すべての生徒がコンピュータを使いこなせるようになることです。
次に第 2 のステップとして、1ターム 2年の専門科目を選択させます。生徒は、2年間でテクノロジの1つの分野を学習しなければなりません。選択できる分野には次のようなものがあります。
- A+ とヘルプデスク
- ネットワーク技術 I および II ― 通称 Cisco Academy
- Visual Basic、C++、Java を使用したプログラミング
- 地理情報システム ― ArcView<
- Pagemaker を使用した DTP
- DTV
- Photoshop を使用したデスクトップ グラフィックス
- Flash、Photoshop、HTML を使用した Web 開発
- ビジネスとデスクトップ アカウンティング (会計アプリケーションの使用)
つまり、実に多くの生徒が、常時コンピュータの授業を受けていることになります。ちなみに、我が校の生徒総数は、わずか 1,700 名です。
第 3 のステップは、人材育成に役立つ時間を設けることです。冬季は、週に1回、業界関係者の話を聴くチャンスがあります。学校にゲスト スピーカーを招いて職場での経験などを語っていただきます。履歴書の書き方、服装、習慣、仕事に慣れる方法など、生徒はいろいろな話を耳にすることができます。
次に、検定試験の備を開始します。春には、本番に備えて、IT 科の生徒を対象とした模擬試験が実施されます。我が校は、セキュリティに優れた IT 試験会場として認定されたため、いつでも試験を実施することができるのです。いずれも有料ですが、なかでも最も人気が高い試験は、ご存知のとおり、A+
と Windows NT、Network+、i-Net+ などです。この時期に受験することは、生徒にとって次のステップへ進む心構えができるので効果的です。つまり、実務前の準備対策になるわけです。
また、我が校では、IT インターンシップ (実務研修) というプログラムを導入しています。年に 2 回 (1月と 春・5月に1回ずつ)、企業の採用担当者を招いて、生徒と面接をしていただきます。多くの生徒は、自分のスキルをアピールし、面接結果もよいので、仕事のオファーを受けます。そうでない生徒は、これまで以上にスキルを磨き、成長する必要があることを実感するのです。
このプログラムを通じて依頼される仕事は、学業の次に優先されます。我が校では、大学への進学を前提とした指導を行っているため、請け負った仕事は、授業中ではなく放課後を利用して遂行させます。これを機にお付き合いが始まった企業から、フルタイムの仕事の引き合いがあったり、大学進学の奨学金が支給されるケースも少なくありません。
そして、最終的なステップとして、大学進学の準備があります。我が校の生徒は、大学入学に値する十分な知識を備え、IT 関連の企業/団体での実務においても非常に高い評価を得ているため、大学側でも生徒の獲得に躍起になります。日本なら、野球の上手な生徒、ケンタッキーならバスケット
ボールの上手な生徒が、複数の大学からラブコールを受けるのと同じことです。校内では、懇親パーティ、キャンパス デイ、朝食会などを企画して、いわゆる「フェイス タイム (人と実際に会って話をする時間)」を意識的に増やすよう心がけています。また、我が校のスタッフと大学のスタッフは、より効果的な採用活動を実現するために、2
か月に 1 度、ミーティングを開いています。
以上が、我が校に定着している指導上のステップです。
- 準備教育およびコンピュータ リテラシ
- 専門的なスキルの開発
- ソフト スキル
- 世界標準の検定試験
- IT の実務研修
- そして大学
Eastern High School では、こうしたプロセスを経て、IT 分野で活躍できる人材を育成しています。
私たちは、Eastern High School における、これまでの業績に誇りを感じるだけでなく、企業など、さまざまな方面からの協力が得られたことに感謝しています。最初に申し上げたとおり、古い文化を刷新するにあたっては、多くのリソースが必要でした。6年前、Authorized
Academic Training Provider (MS AATP) プログラムというツールを開発したのは Microsoft でした。このプログラムで実現されたカリキュラムのおかげで、我が校では先進的なスキルを指導する体制を構築することができたのです。
MS AATP プログラムが終了した頃、Job Plus プログラムとも呼ばれる CompTIA という教育プログラムがあることを知りました。これは、試験やトレーニングに対する生徒の抵抗感を払拭する上で効果的でした。また、CompTIA
スタッフの支援により、我が校はセキュリティに優れた試験会場として、校内における試験の実施が認可されました。CompTIA のスタッフは、はるばるケンタッキーまで足を運び、率先して CompTIA プログラム導入に必要な体制をすべて整えてくれたのです。そして何よりも重要なことは、このプログラムの導入によって、我が校でも、ベンダにとらわれない中立型の業界標準に基づく指導や試験の実施を実現できたということです。業界の変化の波に合わせて、CompTIA
も変化し、我が校をはじめ、会員機関、教育機関を相手に情報の発信と更新を重ねてくれました。Johnと CompTIA には感謝しています。
ところで、我が校には、もうひとつ重要な特色があります。それは、カリキュラムには含まれていない社会貢献活動です。Eastern High School には、生徒が自分たちのスキルを社会に役立てることができる
Student Technology Leadership Program という校内組織があります。他校に出張してコンピュータの設定等を手伝ったり、カンファレンス会場で指導したり、コンピュータの問題で困っている教師や学生を、校内でサポートしたりしています。
皆さまのなかにも被害を受けた方がいらっしゃるかもしれませんが、Nimda ウィルスがケンタッキーを襲撃したとき、何台ものバスが学校に来ました。このとき、私たちは生徒をバスに分乗させて、あちこちの学校に出向いては
Nimda ウィルスの除去作業をサポートしたのです。
また、Eastern High School では、楽しいイベントも用意しています。校内で夜通し開催される LAN パーティは、生徒の受験料を補助するための資金を集めるチャンスでもあります。
最後になりましたが、Eastern High School で私たちが目指したものは、学校の文化を変えるということでした。すべての生徒に市場本位のコンピュータ スキルを習得させ、IT ビジネスの現場ですぐに使える人材へと育成することに努めてきたわけです。その結果、卒業した生徒が自然とテクノロジの世界に身を置くことができるように、私たちが提供すべきコンピュータ関連の専門的知識のモデルを確立することができました。我が校の生徒の大学への入学状況が、それを証明しています。我が校の場合、他校に比べ、はるかに多くの卒業生がコンピュータ関係の学科に進んでいます。このように、私たちは、コンピュータの基礎的なスキルの指導に終始することなく、競争優位性やリーダーシップを重視すると同時に、自らそれを発揮できる人材を育成するという所期の目標を達成することができたものと自負しております。
皆さま、ご清聴ありがとうございました。